TRNSYS入門(1) TRNSYSとは?

2019/5/20 TRNSYS18入門オンラインセミナー(無料)に合せて記載内容を最新情報へ更新

TRNSYSって不思議なツールです。誤解を恐れずに言えば、それ自体は何の計算も出来ません。一緒に提供されるコンポーネント(計算機能が詰まっている)を並べて、つなげて、初めて計算ができるようになります。なにか特定の計算ツールというより、計算を組み立てるツールキットという感じでしょうか?個人的には開発ツールに近い印象を受けています。

別の言い方をすると、計算したい内容を知っている方向けのツールです。環境工学で計算に使用される一般的な「」が部品として用意されています。それら意味とつなぎ方が分ればなんでもできてしまいます。
これなんというか、WordやExcelでも一緒ですが、例えば、Excelが家計簿に使えるのは想像できても、家計簿そのものを知らないと使えないみたいなものです。家計簿の付け方がわかっていて、はじめてExcelの機能が力を発揮するのと一緒です。

なかなかそのあたりの説明が難しくて、「○○○の計算できますか?」みたいな、ピンポイントで訊かれると、どこから説明していいのか悩みます。

さてさて、そんなわけでTRNSYSを分り易く説明できないかと、入門シリーズを始めてみたいと思います。

まず1回目は「TRNSYSとは?」からです。

TRNSYS

名前の由来

さて、このTRNSYSですが、ちょっと独特の綴りを使っています。この名前は以下の名称がもとになっています。

TRaNsient SYstem Simulation Tool  

ちょっと長いですよね。後半のSystem Simulation Toolはともかく、TRaNsientってなんでしょうか?

辞書で調べると、「一時的な」とか「過渡の」とか、日本語に訳しても、ちょっとピンと来ない意味があります。ちなみにtransient phenomenaだと「過渡現象」という(電気の用語?)の意味で「定常状態」に対する用語になります。(Wikipediaより)  

建築環境工学でいう定常計算に対して「非定常計算」、あるいは「動的計算」のような意味で使っているのじゃないかと思います。意訳すると、

非定常システムシミュレーションツール
あるいは、
動的システムシミュレーションツール

という感じでしょうか?製品名というより、なんだか一般的な用語みたいになってしまいます。

後述しますが、開発が始まった時期(1970年代)を考えると、当時は「非定常計算」に相当するような用語がなかったのかも知れません。いまならdynamicとか、unsteadyとか使いそうです。

ともかく、動的な条件によって変化するシステム全般のシミュレーションに対応したツールに由来した名前だというのが覗えます。

でもね、省略するとき、なぜ”a”を除いて”TRN”にしたのかは謎です。

開発経緯

TRNSYSの歴史を紐解くと、米国ウィスコンシン大学のSolar Energy Laboratory、通称SELにたどり着きます。このSELが米国政府から公的な支援を得てTRNSYSの開発が始まります。

その後、継続的に開発が行われ、1975年3月にver6.0として一般に公開されてます。

TRNSYS年表

1975.03 ver.6.0
1975.11 ver.7.1
1976.09 ver.8.1
1977.10 ver.9.1
1979.06 ver.10.1
1981.11 ver.11.1
1983.12 ver.12.1
1990.10 ver.13.1
1994.07 ver.14.1
2000.03 ver.15.0 ←ユーザーインターフェースが充実し始める
2004.09 ver.16.0
2010.07 ver.17.0
2012.06 ver.17.1
2017.04 ver.18.0 ← Radianceを使った昼光利用、光環境の機能追加
2018.11 ver.18.1

公開からすでに40年以上の歴史です。当初のバージョンでは太陽熱集熱器の計算プログラムだったようです。その後、開発が続けられ、現在では各種の設備機器や多数室モデルなど、幅広い用途で使用できるツールになっています。 例えば、USのLEEDの計算などでも利用されているようです。もちろん日本でも省エネ法の計算ツールとして国交省の特別認定を受けています。

最新版のver18.1では光環境の計算では定番のRadianceの機能を取り込んでいます。昼光利用による照明負荷の削減効果の検討や、DF,DA,cDA, UDIなど、光環境の指標の計算へも対応しています。

TRNSYSの利用用途

日本では多数室モデルの計算で利用されている例が多いのですが、本来汎用ツールなので、さまざまな計算が可能です。

多数室モデル(住宅、事務所ビルなど)

  • 昼光利用
  • 照度計算
  • 室温、湿度、表面温度
  • 年間暖冷房負荷計算
  • 快適性評価
  • 外気導入の効果検討
  • 蓄熱、蓄冷効果の検討
  • 日射遮蔽効果
  • 断熱性能の比較、検討
  • 窓性能の検討
  • 建物方位の影響
  • 地域の気象条件
  • 換気連成(オプション)

システムシミュレーション

  • 暖冷房システム
  • 太陽熱利用システム
  • 給湯システム
  • 太陽光発電
  • 風力発電
  • 電気設備
  • 地中熱利用
  • システムの最適化検討
  • 外部プログラム連携 (EES,Matlab,Mathis,Contam,Excel,Python,CoolProp, FlowDesigner)
  • 施設園芸
  • 植物工場

また、近年はユーザーインターフェースの実装が進み、より使いやすい現在の形が整います。逆に言うと、それまではテキストエディタで計算用のデータを作成していたようです。今でもテキストエディタでデータを編集する機能は健在ですが、かなり難解です。慣れるとTRNSYSの仕組みを理解する上では非常に役に立ちますが、なにか理由がない限りオススメはしません。

TRNSYSのユーザーインターフェース(Simulation Studio)  

Simulation Studio
Simulation Studio

この画面でコンポーネント呼ばれる計算の部品を並べてシミュレーションを組み立てていきます。機能とデータの流れを繋いでいくだけなので、視覚的に計算の流れが見通せます。

開発体制

SELで始まったTRNSYSの開発は、その後、各国の研究機関、民間の開発会社など参加する組織が増えて行きます。現在は国際的な協力体制で継続的に行われています。

現在、主な開発拠点は4つあります。  

TRNSYSの国際的な協力体制
TRNSYSの国際的な協力体制

SEL(Solar Energy Laboratory)

Solar Energy Laboratory University of Wisconsin-Madison

TRNSYSの開発元。アップデート版の配布、購入前の検討用のデモ版、各国の代理店情報が集約されています。

TESS社(US)

Thermal Energy System Specialists, LLC  

SELと連携してTRNSYSを一般向けに提供している民間企業です。TRNSYSの販売元。
TRNSYSの基本部分、計算のコアになる部分の開発を行なっています。 また、TESS社が独自に開発したコンポーネントをTESS Component Libraryとしてリリースしています。主に設備系のものが多く含まれています。    

CSTB(フランス建築科学技術センター)

CSTB – Centre Scientifique et Technique du Bâtiment

フランスの公的な研究機関。Simulation Studioの開発を行なっています。ユーザーインターフェースの開発の他、最近ではBIMモデルからの変換ツール「eveBIM-TRNSYSの開発を行っています。

TRANSSOLAR社(独)

TRANSSOLAR Energietechnik GmbH

ドイツの民間開発会社。TRNSYSの多数室モデル、Type56を開発しています。関連して以下のアプリケーションをリリースしています。

  • TRNBuild(材料物性、室内発熱、換気など条件設定)
  • TRNSYS3D(形状のモデリング用のSketchUpプラグイン)
  • TRNFlow(換気連成オプション)
  • TRNLizard(パラメトリックスタディ用のRhinoceros/Grasshopperプラグイン)

この3つの開発拠点に加えて、販売、サポートを行う代理店が世界各地に存在します。販売の他、各国の個別の事情に応じたサービスやサポートの提供を行なっています。

つづく。

関連リンク:

TRNSYS入門(1) TRNSYSとは?
TRNSYS入門(2) TRNSYSの仕組み
TRNSYS入門(3) アプリケーションの構成
TRNSYS入門(4) Simulation Studioの基本操作

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