TRNSYS Type 56 / TSGRDはどう設定すべき?
2025年12月16日

TRNSYSで建物を計算する際、Type 56 (TRNBuild) のTSGRD パラメーターについて、「これは物理的に何を意味しているのか?」「どう設定するのが正解なのか?」と迷ったことはないでしょうか。
公式フォーラムでまさにこの点についての議論があったので要点をご紹介します。
元記事: Asking for the official handling of the parameter TSGRD in TRNSYS Type 56
TSGRDとはなに?
質問者の疑問は以下の点です。
前提
- 公式のサンプル(Restaurantなど)を見ると、TSGRD が 乾球温度(外気温) に接続されている。
- マニュアルには「外壁から見える、空(Sky)以外のすべての表面温度」とある。
疑問点
- 建物周囲の地面※や建物の温度を「外気温」と同一視していいのか?(夏場などは地面の方が熱くなるのでは?)
- もし接続しなかった場合、TSGRDはどのように扱われるのか?
- 公式な推奨設定はあるのか?
特に、夏場のオーバーヒート判定などでは、周囲の地面温度が影響しそうですが、この「外気温につなぐ」という慣例の妥当性が気になったようです。
※地面:ここでの意味は建物周囲の地面を指します。土間床や基礎下など建物が直接触れている地面の温度は境界条件で扱います。(以下のリンク先の記事を参照)
TSGRDの一般的な扱い
- 外気温につなぐのは「簡略化」
外気温(Dry bulb temperature)につなぐのは、詳細な現地データやモデルがない場合の一般的な簡略化です。あくまで便宜上の設定であり、より適したデータやモデルがあるならそちらを使うべきです。 - 未接続はNG(デフォルトは0になってしまう)
もし TSGRD を何にも接続しなかった場合、TRNSYSはデフォルト値として 0 を使用します。 夏場も冬場も地面温度が0度というのは現実的ではないため、何かしらの妥当な値(外気温など)に必ず接続する必要があります。 - より現実に近づけるための代替案
外気温そのままでなく、より精度の高い地面温度として扱いたい場合、以下のようなコンポーネントが利用可能です。- Type 77 (Kusuda model): 標準ライブラリに含まれています。年間の平均・最高・最低気温から地中温度を正弦波で近似します。日射による表面温度上昇までは考慮されませんが、日ごとの激しい変動がない、安定した地温を表現できます。
- TESS Type 1267 / Type 997: TESSライブラリ(有料アドオン)であれば、より高度な地中温度モデルが利用できます。
- Equation: 「外気温」と「Type 77の地中温度」の平均をとるなど、自分で式を組んで調整するのも一つの手です。
- 感度解析を推奨
「結果にどれくらい影響するか」はケースバイケースです。 外気温につないだ場合と、Type 77などを使った場合で計算結果(室温や負荷)がどれくらい変わるか比較(感度解析)を行うのが確実です。もし差が大きいなら、周囲の環境(日射吸収や熱容量など)を真面目にモデル化するコストをかける価値があります。 - 公式な「ベストプラクティス」はない
TRNSYSはツールであり、「どう入力すべきか」という基準(ASHRAEなどの規格)を提供するものではありません。基準が必要な場合は、各国の建築基準やガイドラインを参照してください。
まとめ
- TSGRDは「空以外の建物の周囲(地面など)の温度」
- 未接続(0度)は避ける。最低でも外気温につなぐ
- 外気温接続はあくまで簡易的な設定
- 精度を上げたいなら Type 77 などの地中温度モデルの利用を検討する
とりあえずサンプル通り外気温につないでいた方も多いと思いますが、地面からの放射の影響が大きそうな案件では、一度設定を見直してみると良いかもしれません。